こんにちは。昨年6月末で定年退職を迎えた独身男性です。
今回は津村記久子さんの「水車小屋のネネ」を読んだ感想です。
この作品は、2023年の谷崎潤一郎を受賞した長編小説で、今年の本屋大賞にもノミネートされています。既に読まれた方も多いかもしれませんね。
物語は、18歳の理佐と8歳の律の姉妹が、ある事情で家を飛び出していくところから始まります。行き先は理佐が職安で見つけた住み込みで働ける、とあるおそば屋さん。ただ、このそば屋の求人には「鳥の世話じゃっかん」という不思議な一文が付記されていました。
そば屋に行ってみると、裏手にそば粉を挽くための水車小屋があり、そこに「ネネ」という名の一羽のヨウムが住んでいました。
ヨウムというのはオウムの一種で、とても賢く人間の3歳児程度の知能を持っています。なので、ネネは人間の言葉をマネてしゃべったり、簡単な会話(意思疎通)もできたりするのです。また、水車小屋でそば挽きの監視もしていて、そば作りには欠かせない役割を果たしていました。
求人の内容は、このネネの世話をしながら、そば屋のホール係をするというものだったのです。
理佐はこのそば屋で働くことになり、まだ幼い律とともにネネの世話をしていくのですが、新しい生活は手探り状態で、これから先の事を思うと不安で仕方ありません。しかし、周りの人達に温かい支えによって、徐々に自分達の居場所を見つけ、やがてしっかりと自分の人生を歩んでいくことになります。
この作品は、2人の姉妹と彼女らが関わる人達の様子が10年ごとに40年にわたって描かれています。そして、この40年の間もネネはずっと傍らにいて(ヨウムは50年くらい生きる動物です)、姉妹をはじめ町の人達を癒やしとなっています。
物語では、大きな事件が起こったりドラマティックな展開があったりすることはありません。ただ、日常的な暮らしが描かれているからこそ、姉妹に関わる人達の優しさ、ネネの愛おしさがじんわりと心に滲みました。
この本の中で登場する、印象的な台詞をちょっとだけ紹介します。
自分が元から持っているものはたぶん何もなくて、そうやって出会った人が分けてくれたいい部分で自分は多分生きてる
誰かに親切にしなきゃ、人生は長くて退屈なものですよ
理佐と律は自分が穏やかに暮らしていけるのは関わった人達の優しさのおかげということに気付き、やがて成長した2人は自然と誰かを支えるようになっていきます。そして、その誰かもまた別の誰かを支えていく・・・という素敵な連鎖が展開していきます。
イヤな人はほとんど登場せず、500ページほどもある長編でしたが、どんどん読み進めていくことができました。
ただ、1つの文がとても長い場合があって(7~8行にわたることもあり)、主語や修飾の関係がわからなくなってしまうことがしばしばありました。私が長編小説を読み慣れていないせいだと思いますけどね。
まあ、それはさておき、読後は心が温かくなるとても良い作品でした。
それではまた。
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