こんにちは。昨年6月末で定年退職を迎えた独身男性です。
今回は一色さゆりさんの「ユリイカの宝箱」を読んだ感想です。
著者の一色さゆりさんは東京芸術大学の出身だけあって、過去にもアートにまつわる小説をたくさん出版されています。この作品も「アート旅」を題材とした連作短編集となっています。
どんなお話?
アート好きの主人公優彩(ゆあ)は、勤め先の画材店が閉店し現在無職。自分の現状や将来についてネガティブな思いを抱いています。
そんな彼女の元に、ある日見知らぬ旅行会社から「アート旅」へのモニター参加の招待状が届きます。全く心当たりの無い優彩でしたが、半信半疑で待ち合わせ場所に行ってみると、そこにはツアーガイドの桐子という女性が待っていました。
そして桐子とともに「現代アートの聖地」と呼ばれる瀬戸内海の直島へと、アートを巡る旅に出かけて行きました。
ちなみに、今作のタイトルとなっている「ユリイカ」とはギリシャ語で「わかった!」という閃いた瞬間を指す言葉なのですが、優彩はこのアート旅で「ユリイカ」を経験し、気持ちに変化が生じていきます。これが第1章のお話です。
第2章から第4章では、優彩は桐子と共にガイドする側となって2人でアート旅を案内していきます。
各章に登場するお客さん達は、それぞれ何かしら悩みを抱えています。心に穴が開いていたり、不満やイライラを募らせていたり・・・。そんな彼らもアート旅を通じてユリイカな瞬間に出逢い、徐々に心が変化していく・・・そんな物語です。
感想など
ツアーガイドの桐子は、美大出身でアートについてとても豊富な知識を持っているのですが、このガイドがとても良いのです。
決して知識をひけらかすことなく、ツアー客の心情を思いながらタイミングよく作品の背景を伝えたり、時には客から離れて考えさせたり・・・その距離感が絶妙なのです。
だからこそお客さん達はユリイカな瞬間に出逢えたのでしょうね。
アートに全く詳しくない私は、美術鑑賞というのは「きれいだ」とか「すごい」といった感想を持つものだと思っていましたが、この作品を読むと何かそれ以外の発見ができるような気がしてきました。
それから、この作品にはちょっとしたミステリーの要素もあります。
途中で桐子は優彩に「ずいぶん前に面識がある。」と言って小さな鍵を渡すのですが、これはどういうことなのか、いったい桐子は何者なのか、そもそもなぜ優彩に招待状が届いたのか・・・。こういった謎解きも楽しめて、どんどん読み進めていきました。
ちなみに、著者の一色さゆりさんはミステリー作家で、2015年に「このミステリーがすごい」大賞を受賞されているんですね。
印象的なことば
あと、この作品には印象的な言葉があちこちに散りばめられています。ちょっとだけ紹介しますと・・・
じゃあ、楽しみね。人生、はじめては一度きりしかないからね。どんなお金持ちでも、初体験を買うことはできない。だったら何事にも、今しかないっていう気持ちで向き合っていたい。
「でも・・・。」口癖のように自己否定的な言葉を並べかけるが、誰も得しないと気がつく。できない理由なら、百個でも千個でも言える。大切なのはやりたいかどうか。できるかどうかなんて、今はわからなくて当然。
過去が咲いている今、未来のつぼみで一杯な今。
大事なのは、誰かにどう評価されるかじゃなくて、あなたが満足しているかどうかだからね。
印象に残るフレーズは、まだまだ他にもたくさんありました。
最後に
私はこれまでアートにほとんど関心がありませんでしたが、この作品を読んでいると、とても興味が湧いてきました。今作に登場する美術館などは全て実在するものなので、いつか同じ美術館を同じコースで回ってみたいと思いました。
文章もとても読みやすいですし、アートに詳しくなくても全然大丈夫。個人的にはかなりおすすめの作品です。
それではまた。
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